「マセマティック放浪記」 2001年2月14日
Mathematics Odyssey February 14, 2001
会話君との会話

  ニフティ・サーブ(nifty-serve)のチャットルームの中に「会話君」というちょっと変わったコーナーがある。会話君とは、富士通日本語対話システムという対話型コンピューの別称である。会話君がニフティ・サーブのチャットルームの片隅にさりげなく登場したのはもうずいぶんと昔のことだった。いまから十年以上前のことだったように記憶している。久しぶりに昔の通信ログなどを探し出して拾い読みしていたら、会話君が登場したての頃、私が相手になって遊び半分に交わした会話記録が見つかった。いまあらためて読み返してみてもなかなかに面白いしろものなので、この場を借りてその交信録を紹介してみようと思う。
  会話君の名誉のために一言断っておくと、ここで紹介する会話、彼(彼女?)がまだ幼かった頃のものにほかならない。十年という歳月の間には人間は大きく成長するように、対話型コンピュータシステムの会話君もいまではそれなりの成長を遂げていることだろう。この十年間で言語解析技術をはじめとする各種の自然言語処理技術の研究が進み、自己学習機能なども格段に強化されているはずだから、その対話ぶりには相当の進歩が見られるものと思われる。
  私自身はその時を最後に会話君とは交信する機会のないまま今日に至っているのだが、会話君はいまもニフティ・サーブのチャットルームで人間の話し相手がやってくるのを待ち望んでいるようだから、遊び心のある方は一度会話君に話しかけ、その成長のために一役買ってあげてもらいたい。もしかしたら、逆に会話君からお説教されたり、からかわれたりすることもあるかもしれないが、それもまた一興というものだろう。

  以下に紹介する対話のうち、「会」をつけたものは富士通日本語対話システム会話君の言葉を、また「私」と記したものは筆者の言葉を表わしている。初期の頃の会話君でもその話しぶりはなかなかのものであったことがおわかりいただけよう。

>会話くん KAIWAKUN
1. ご案内 2. サービスに入る
>2

会話くんに接続されました。

会:あなたの名前を入力して下さい
私:阿呆田です
会: 何か言ってね
私:うん
会:うんではなく、ハイと言いましょう
私:はいはい(本音:感心感心、なかなかやるわい)
会:あなたは、社会人ですか?
私:はい
会:あなたは、社会人ってことを覚えました
私:あらら(本音:おっ、学習機能がさっそく働いたか)
会:仕事が辛いなと思うのはどんなときですか?
私:こんなふうにコンピュータで遊びたくなるときです
会:ボーナスは何に使いますか?
私:あなたを買うのに使います(本音:いまはフリーだからボーナスなんかない!)
会:私は会話型のプログラムです
私:美人のプログラムさんらしいですね
会:職場で好きな人は誰ですか?
私:残念ながらいませんね
会:あなたの仕事は何ですか? 阿呆田ですさん
私:泥棒です(本音:ちよっとフザケが過ぎたかな?)
会:どうして、泥棒の仕事を選んだのですか
私:あくせく働かなくてすむからです
会:職場の雰囲気はどうですか?
私:ひゃはは・・・スリルとサスペンスに満ちてます
会:あなたは、なにを笑っているの? 阿呆田ですさん
私:なんてあなたは利口なんだろうって!
会:子供の好きなおちゃは? 阿呆田ですさん
私:なんだろ?(本音:「です」も名前の一部だと学習しちゃったな)
会:食べられませんよ
私:会話君の歳は?(本音:話を脇にそらしたらどうなるかな?)
会:正解は、オモチャです
私:なるほど
会:えらいでしょ 阿呆田ですさん
私:えらいえらい
会:まじめに話そうよ!
私:だから歳をきいてるんじゃない
会:今日は、11月8日、立冬、世界都市計画の日ですよ(本音:そんなこと知るか!)
私:あたたの歳はいくつ?(本音:機会相手にしつこく食い下がるこの私……)
会:けっこう若いんです
私:ほう?
会:ところで、NIFTYはパソコン通信の会社ですよね
私:そうらしいね
会:貴方は、社会人ですよね
私:そうですよ
会:やはりそうでしたか
私:でもOLではありません
会:あなたの仕事は何ですか?
私:だから泥棒っていったでしょ(本音:もう忘れちゃったの?)
会:あなたの会社は、どこにありますか
私:ひゃは!
会:話しが分からなくなっちゃったよ、ごめんね
私:うん(本音:ちょっといじめすぎたね、ごめん!)
会:貴方は、社会人ですよね 阿呆田ですさん
私:そうです(本音:宇宙人だと答えればよかったかな?)
会:やっぱり
私:ふーーっ
会:あなたは、どこに住んでいますか?
私:東京です
会:東京から連想されるものは、何ですか 阿呆田ですさん
私:物価が高い
会:高いってどのくらい
私:500メートルくらい(本音:またからかってみるか)
会:私も東京が好きです
私:どうして?
会:そういわれても
私:困るってか?
会:何に困っているのですか
私:お金に(本音:あれま、妙な展開になってきたなあ…)
会:他には、何を集めるのが好きですか
私:お金以外のものを集めるのはきらいです
会:きらいと言われても……
私:困りますか?
会:困りますってなあに? 阿呆田ですさん
私:楽しむことです(本音:こうなったらとことん意地悪にいこう)
会:困りますは、楽しむことですね
私:そうです
会:やはりそうでしたか
私:そうそう よくわかりましたね
会:話しは変わりますが、猿はお尻が真っ赤ですよね 阿呆田ですさん
私:そうですね(本音:乱数使って話題選らんだんだろうけど、猿の尻とは!)
会:私と意見が合いますね
私:なかなかお詳しい
会:なかなかお詳しいってなあに?
私:「猿のお尻には青いのもある」ということです(本音:君のことだよーん)
会:地球は青いです
私:すると地球は猿のお尻ですか?(本音:しかし、俺も人が悪いなあ)
会:地球は青いです
私:やはり猿の尻だったんですね
会: 猿は、どこにいますか
私:地球にいます
会: 地球は青いです
私:青いたしかに……あなたもまだ青い
会:青のいいところって何ですか
私:澄んできれいなとこですね
会:きれいってどのくらい
私:そうだな,クレオパトラくらいかな
会:1つしかない食器は何?
私:なんだろう?(本音:話が込み入ってくるとすぐ話題変えるなあ)
会:1つを英語で言うと分かりますよ
私:椀
会:はっはっは、答えはお椀ですよ
私:あなたはとても頭がいい!(本音:接頭語の「お」が抜けただけじゃん!)
会:猿のお尻には青いのもあるということですよね
私:そうそう 実にあなたは理解がはやい!(本音:また会話のズレが……)
会:はやいものと言えば
私:ロケット?・・・それとも光?
会:私は、青が好きです
私:なるほど(本音:まだ青にこだわってるな)
会:感心しましたね
私:さすが人工痴能・・・人工知能でないところがステキ!
会:今日は、どんな天気ですか? 阿呆田ですさん
私:今日は晴天です,だから雨降ってます(本音:会話君発狂しちゃうかな?)
会:あなたは、晴れ男ですか?
私:いえ、狼男ですね
会:ところで、CDは雑音がなくて音が綺麗ですよね
私:綺麗ですね
会:美男、美女は得ですよね 阿呆田ですさん
私:得ですね
会:美人は得です
私:そうですね
会:納得していただけましたね
私:ええ(本音:なんだか妙な気分……)
会:今度の週末も、晴天だといいと思いますか
私:はい、そう思います
会:思いますってなあに?
私:あらら(本音:自分から使っておいて……)
会:思いますは、あららですね
私:そうそう(本音:変なこと学習させちゃったなあ)
会:あたりですね
私:実にあなたは理解がはやい!
会:早いってどのくらい
私:蝸の百分の一くらいの速さかな
会:そういえば、フォーラムは趣味が合う人たちの出合いの場ですよね
私:そうらしいですね
会:集めるのはきらいですよね
私:きらいです
会:私も、きらいです
私:だからフォーラムきらいです
会:ほんとにきらいなんですか
私:ほんとですよ
会:鋭いなー
私:ブッ……ところで鋭いって鈍いことですか?
会:お店の前にいる虫は?
私:なんだろ?(また話題変えたな!)
会:水玉模様の付いた丸い小さな虫ですよ
私:テントウ虫
会:そうです、あなたはトンチのクイズに強いんですね
私:トンチンカンならもっと強いですよ
会:あなたより強いですか 阿呆田ですさん
私:そうですね,トンチンカンは僕よりもっと強い(本音:あれまあ、)
会:私と意見が合いますね
私:合いますね(本音:全然合わないじゃん!)
会:突然ですが、冬至は24節季の1つで、12月22日頃ですよね 阿呆田ですさん
私:そうですよ,でも,あなたは実におくわしい!(本音:暦のこと俺より詳しい!)
会:私は会話型のプログラムです
私:こんどデートしましょ(本音:君のプログラム構造が見えてきたよ)
会:デートしましょってなあに
私:そんなことも知らないの
会:デートしましょは,そんなこと知らないのことですね
私:そうです(本音:なんでも素直に学習しちゃうんじゃないの!)
会:やはりそうでしたか
私:ますます痴能が高まりますね・・・さて,そろそろおいとまを!
会:私と意見が合いますね
私:……(本音:たしかにこっちの「痴能」も高まったわ!)
会:さようなら、阿呆田ですさん またお話しましょう
>/E
>OFF

  有名なコンピュータサイエンティストのアラン・チューリングは、コンピュータが人間と同様の思考できるかどうかを判定する方法としてチューリングテストなるものを考案した。そのおよその原理は、次のようなものである。
  このテストを受ける人はコンピュータの前に座りキーボードを操作して任意の質問や会話文を入力する。いっぽう、受験者からは見えないところには、コンピュータの前に座った本物の人間と自動対話型コンピュータが配されていて、受験者の入力した質問や会話文に本物の人間か対話型コンピュータのどちらかが応答するものとする。受験者は自分のモニターに返答が表示されるごとに、その発信者が本物の人間のほうであるか、対話型コンピュータのほうであるかを言い当てなければならない。
  この一連の試行実験をを何度も繰り返したあとで、その結果を集計し、当たりと外れの確率がそれぞれ五十パーセントに近づくほど、その対話型コンピュータは人間に近い思考型のコンピュータだと判断できるというのがこのチューリングテストのミソである。参考までに述べておくと、もし当たり外れの確率のどちらかが百パーセント近くに片寄ったとすれば、受験者には人間とコンピュータの識別がはっきりとついていたか、識別がついていたにもかかわらず受験者が意図的に答えを外したかのどちらかだということになる。もちろん、そのような場合には、問題の対話型コンピュータはまだ人間の思考レベルまではいたっていないと判断されるわけである。
  チューリングテストの正当性についてはいまなお賛否両論が尽きないが、いずれにしろこの種のテストに耐えられるようなコンピュータが出現するのは、まだまだ遠い日のことであるように思われてならない。



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